竜神の涙
(大府市)
おおぶの里のうら山は、草木がおい茂り昼でも暗い山でした。 雨が降ると、大水がでるので里の人々は大層困っていました。ある日、大雨になりそうな雲行きに、庄屋さんが、誰か山の様子を見てくるように頼みました。 みんな怖がってなかなか引き受ける者がいないので、人のいいごん六とげん七が行って見てくることになりました。二人が山に入ると、空がまっ黒になって大粒の雨が降り出しました。 「いよいよだめかのう」「戻ったほうがいいかのう」などと言っていると、グワーン、グワーンというものすごい音がしまして、天にも響く大声が聞こえてきました。 「わしはこの池にすむ竜神じゃ、天に昇りたいが池がこわれていて水が足りん。池をなおせ。」 びっくりぎょうてんした二人の話を聞いた庄屋さんは、里の人々にいいつけて大急ぎで山の池をなおさせました。すると、大きな雷が鳴ったかと思うと、池の水が渦を巻いて柱のようにふき上がっていきました。 「竜神さまが天に昇っていかれる。」里の人々は、手を合わせて座りこんでしまいました。 天に帰った竜神さまは、ないて喜びました。その涙が雨のように降ってきました。やがて、涙の一粒ひとつぶから芽が出てきました。暗いうら山は、桃の山となり、大水も出なくなりました。