そこぬけびしゃく
(南知多町)
むかし、むかし、漁に出た船に積んだかめの水が、夜のうちになくなることがよくありました。漁師たちの間では、海で溺れた亡者が水を飲みに来たと言う話が広まりました。
島には、小さな井戸しかなく、いつも少ししか水がないので、みんな大変苦労していました。
船で飯炊きの仕事をしている長吉は、島の井戸で汲んだ水を船に積み込みます。井戸と船を何度も往復するのは、少年の長吉には大変な仕事でした。
「苦労して汲んだ水を亡者に飲まれてはたまらない」長吉は、寝ずの番をしますが、時にはついついうとうとしてしまいます。
そんな時は、待っていたように亡者たちが海からあがってきて、ひしゃくを取り合い、かめの水をどんどん飲んでいきます。
積んできた水がなくなってしまうと飯も炊けないので、長吉はひどく叱られます。
(眠ってしまっても、亡者が水を飲めないように出来ないものかな)
長吉は、そんなことばかり考えていました。
そんなある晩、長吉が居眠りを始めると、海からあがってきた亡者たちがいつものようにひしゃくで水を飲もうとしました。ところが、いくら汲んでも水が飲めません。
「どうしたことだ。」「ちっとも水が汲めん。」水がめの前で亡者たちは困るばかり。長吉が昼間のうちに、ひしゃくの底をぬいておいたのでした。
亡者たちはあきらめて海に帰っていきました。それからは、船の水がめのそばに底の抜けたひしゃくを置くようになったということです。
*各地の漁村に伝わる亡者話ですが、その多くは、亡者がひしゃくで海の水を汲んで船を沈めるというものです。かめの水を亡者が飲みにくるという話になっているところが、水不足が深刻だったこの地方の事情を物語っています。